「なるべく早くの日本」と「なるべく遅くのドイツ」小学校就学事情

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ドイツではそろそろ小学校入学の準備がすすんでいて、就学を予定している子供たちの親が説明会に出席して学校を決めたり、ランドセルを買ったり、そわそわと忙しくしています。

ドイツ小学校入学

ドイツの小学校は日本の小学校のように、誕生日ではっきりと学年の区切りが決まっているわけではなく、心身ともに発達がすすんでいる子は1年早く就学させることも可能です。逆に日本で言う早生まれの幼い子などは、就学を1年遅らせることも簡単にできるのです。

この就学させる時期の考え方について、日本人とドイツ人では大きな差があると感じます。

ドイツの小学校のKann-KindとMuss-Kind

何月何日生まれ以降の子供を小学校に上げるか、という日付は日本なら全国一斉に4月1日で、4月2日生まれから新しい学年になります。ドイツでは州ごとでも就学の規則が少し違うようですが、一般的には6歳の誕生日が9月30日まで、つまり10月1日生まれからが新学年となっています。この日付9月30日をStichtagと呼びます。

このStichtagは日本のように子供の就学の年を無条件に決定するものではなく、BW州の場合は6月30日までに誕生日を迎える子供であれば1学年早く入学させることが可能です。この通常より1年早く入学する子供のことをKann-Kind(カン・キント)と呼びます。

学校に行く前の9月30日までに6歳になった子供は10月から小学校に入学して義務教育を受ける必要があるのでMuss-Kind(ムス・キント)と呼ばれます。

9月生まれの子供さんは、むしろ就学を1年遅らせるケースがまわりではけっこう多いです。幼稚園の先生と相談して、Muss-Kindだけど1年遅らせたほうがよいと判断した、という話をつい先日も近所で聞きました。州や市によっても違うかもしれませんが、必要な手続きを取ればそういうことも可能です。

もちろん、出生時に早産で予定日より早く生まれた子で発達がゆっくりめのお子さんなども、就学検査で発達の遅れが認められれば就学を遅らせることが可能だそうです。

日本人で6歳や7歳でドイツに来て、ドイツ語がまったくできないお子さんなどは、1学年遅く小学校に行った、というケースも何人か知っています。

最近のドイツの初等教育の傾向

わたしも以前は知りませんでしたが、最近のドイツの初等教育では子供の就学はできる限り遅くするのが望ましい、という意見が主流です。

身体的にも精神的にも最初の就学から背伸びをさせて無理をさせるよりは、十分に能力をつけるのを待って余裕を持って学校生活のスタートを切ったほうがうまくいく、という意見です。

だから多くのドイツ人家庭の親たちは、日本では学年でいちばん小さくなる2月~3月生まれにあたる8月~9月生まれだと好んで就学を通常よりも1年遅らせたりします。

とはいえ、子供の発達がとても早い、親の仕事の都合など、いろいろな事情で早く就学する子も稀にいます。次項で書きますが、ドイツ人の多くの親がなるべく遅く就学させたい、と言うのは、そのように早く就学した子の様子を見て形成されてきた傾向です。

勉強内容についていけるかというだけならドイツの1年生、2年生はとてものんびりしているので、1年早く就学できる子も沢山いるでしょう。でもそれ以外のこと、集中力やコミュニケーションや協調性など精神面でトラブルが起こりやすくなることが問題視されます。周囲からいじわるされたときに、うまく立ち回ったり、親や先生に必要な協力を求められたりするのも学校生活に求められる大切な能力です。

うちの子のクラスでも5歳で通常より1年早く入学した女の子がいましたが、いろんな面で苦労していて、成績も良くないと聞きました。数字で成績が出るのは2年生の終わりですが、3と4だったと子供達が噂をしていました。(1がいちばん良い成績です。)

無理に就学を早めるのは多くの人が否定的

まわりのドイツ人の親と話していても、わざわざKann-Kindとして1年早く入学した子供については、とにかく批判的な意見の人が多いのです。特に男の子の場合は勉強はよくても、情緒面、集中力や落ち着き、コミュニケーションなどが少々遅れることが多いので、親が無理をさせてかわいそう、という雰囲気で、失敗例が沢山ささやかれています。

学校の先生も、幼稚園の先生も、子供は小学校に入るまでに勉強などせずに出来る限り沢山外で遊ばせるのがよい、という意見が主流です。実際に就学が1年遅れたところでその後の人生にマイナスがあるとも思えませんし、1年遅らせたことで、同学年の子供の中で同じ事をやれば勉強も運動も全てが簡単で、有利になります。

子供が特に年齢よりも早熟で頭が良く情緒面でも安定しているのであれば、入学してから飛び級もできます。実際に知っているケースでは内容が簡単な1年生の途中や2年生で学年を飛ばしています。最近聞いたケースでは3年生を飛ばしました。学校で教わることは知っているし、何でも簡単にできてしまって退屈して学校自体が楽しくない、というのも問題です。

学年を生まれた年で決定してしまう日本と違っていろんな子供の個性に合わせられるという点では良いことだと思います。ただ、選択の可能性がある分、親はいろいろ迷ってしまうのです。

読み聞かせが大切という意識

就学までは遊んだほうがよいからと言って親は何もしなくてはよいのか、というと違います。小学校の先生は、小さな頃から親に沢山読み聞かせをしてもらって育った子をとても評価します。

さんざん遊んでアルファベットも書けずに入学した子供でも、日常的に読み聞かせをしてもらってきた子供のドイツ語の伸びはよく、そうでない子と比べてドイツ語の勉強で困ることが少ないと小学校の先生は言っていました。

片親が日本人で、家庭であまりドイツ語の読み聞かせをやってもらっていない子などは小学生でもやはり語彙の豊かさや、言い回し、文の構造の複雑さなどで差があると感じることがあります。

豊富な子供用音声教材、Hörspiele

親の読み聞かせ以外にも、CDなどで音声としてお話を読み聞かせる教材(Hörspiele)がドイツ語はとても充実していて、4歳ぐらいから日常的に好んで聞く子供が多いです。(Hörspieleはドイツでは大人用もたくさん販売されています。)

内容は文学作品もあれば、ただ騒々しく馬鹿らしいものまで様々なので、聞かせる場合は親が注意深く選ぶ必要があります。子供にデザインで選ばせると非常に危険です。ドイツ語の勉強にDVDやテレビを見せるのと、文学作品のCDを聞かせるのとでは得られる効果が違います。

高学歴で教育熱心なドイツ人の家庭にはテレビがないことが多く、幼い子供にDVDなどを見せることにさえ否定的な人も多いのですが、お話のCDは別。音声教材は市立図書館などでも豊富に揃っています。

日本のように幼少期から詰め込まない

最近の日本の事情はあまり分かりませんが、人気の早期教育シリーズや、知育オモチャなどを見ている限りでは、昔とあまり変わらず、3歳や4歳から音や光の出るおもちゃを使って文字を覚えさせたり、英語を聞かせたりと、幼児教育には非常に熱心なように見えます。

ドイツでは5歳でも6歳になっていても、自分の名前ぐらいしか書けなくても普通です。小学校に入った1年生の子供もまだドイツ語の読み書きがほとんどできません。学校に行く前から無理に文字や計算を教えるのが良くないと考える親が多いからです。

去年の秋に1年生になった子供たちも年が明けて2月になった今でもたどたどしく文字を追って読むぐらいの子が大勢います。1年生の1学期で読み書きが叩き込まれる日本と違って、ドイツの1年生は今週はアルファベットのPを習った、というふうに驚くべきスローテンポで学びます。もうPが書ける、読める、知っている子にはPのつく単語を探させたり、子供それぞれのレベルに合わせてゆっくり授業が進められるのです。

子供用に大きな字で書かれたドイツ語のテキストをすらすらと上手に読めるようになることを期待されるのは1年生の終わり、2年生のはじめです。

こんな感じなので、教えてもいないのに勝手に覚えた、というケースでもなければ、3歳や4歳で読み書きができる、と言っても「すごいね」とは口では言って心の中では「こんな年齢から無理に勉強させるなんて、子供がかわいそう」と思われているかもしれません。

ドイツ語の読み書きは日本語のひらがなと違ってアルファベットと綴りを覚えなければいけないので日本語の読み書きとはすこし様子が違うという事情もあります。アルファベットが書けても、ドイツ人の子が読み書きできるようになるまでには、一般的に日本語よりも時間がかかります。

特に頭がよい子供の教育

ドイツ人の親の中には、まわりの意見に惑わされることもなく、思った通りに子供に教育を受けさせる人たちもいて、子供を1年早く就学させる人もいることはいます。さらに、IQテストを受けさせたり、知能指数が高い子供を対象にした特別プログラムに熱心に参加させたり、ということもあります。子供本人にとってそれが楽しいなら、さらに能力を伸ばせる素晴らしい機会です。

上にも書きましたが、教わることが簡単すぎて、学校の勉強が退屈で飛び級をする子供が時々います。特に頭がよい子供はHoch begabte Kinderと呼ばれて、それなりに特別プログラムなどが用意されています。そういう子供だけを集めた特別クラスがある学校もあります。

ただ、そういうカテゴリーに入る子供でも、親は背伸びをせずにのんびり楽しく学校のことをやって、スポーツや習い事など好きなことをして過ごしてほしい、と特別扱いを嫌がり、あえて普通に育てようとする親もいて、知能指数の高い子供に特別な教育をすることの評価は真っ二つに分かれます。

Kann-Kindとして早く小学校に入れたがる日本人

日本からドイツに移住してきた日本人ドイツ人夫婦のお子さんや、ドイツに長年暮らしているけれど日本人的価値観を保って生活している方たちは、小学校の就学で迷うことがあるようです。誕生日が10月~11月の方たちが、お子さんを1年早く小学校に上げるべきじゃないだろうか、と迷うのです。

そんな希望を幼稚園の先生に伝えたら「まだ早い、やめたほうがいい!」と言われてショックを受けたという方の話も何度か聞いたことがあります。でもドイツ的な考え方では、むしろそれが普通です。

これにはもちろん子供の発達やドイツ語のレベルなども関係するかもしれませんが、何もそれだけの話ではありません。すでに述べたように、就学をできる限り遅らせようとするのが最近のドイツの初等教育の傾向です。

日本的考えからいうと、早ければ早いほうがよい、というのが根底にあって、誕生日が10月のはじめだったら1,2週間しか違わないのだから、幼稚園で毎日一緒に遊んでいた仲の良い友達と一緒に就学させてあげたい、などという考えになりがちです。

先生と面談などで就学時期を早める話をするのであれば、よほどドイツ語レベルが高く、身体面でも精神面でも落ち着いて、しっかりしていて、自分から勉強に集中できるようなお子さんでなければ、普通はいい返事はもらえないことを予め知っておくとよいかもしれません。

教育レベルの高い、子供の教育にわりと熱心な親でも、優秀な子でも遅めに就学したほうがよい、特別コースなどに入れたくない、などと考える人が意外と多いので、早ければ早いほどよい、と考える日本人にとっては物足りないかもしれません。

でも実際に就学の前に、1年早く就学させることを検討していた日本人のお母さんたちも、成績が点数でつくようになる小学校3年生ぐらいになると、普通に就学させてよかった、と言う方が多いです。ドイツ語の成績が思っていたほどよくないのです。子供は一般的に母親との時間のほうが多くなりがちなので、母親が日本人ですと、ドイツ語の基礎的な学力が、どうしても両親がドイツ語の家庭の子と比べて不利です。これは、学校の学習内容がある程度高度になってこないと問題が出てこないのでわかりません。

また、親本人のドイツ語が母国語並か、それに近いぐらいで上級者でないと、子供のドイツ語の問題にも気づくことができません。子供は幼稚園でも小学校でも現地の子と混じって上手にドイツ語をしゃべっている、と思っていたら、文法の間違いが沢山ある、語彙が平均よりも少ない、特定の発音がおかしい、などの問題があることも多々あります。

それだけドイツ語ができなければ親は分かるだろう、と思う方がいるかもしれませんが、そうでない例を複数知っています。

うちの子供達もそうなのですが、ドイツに長く暮らしていても家庭での使用言語が複数あるなど完全なドイツ語環境でない子の就学の時期は、日本的な早ければ早いほどいい、にとらわれずに慎重に検討したいですね。

小さい間にしか出来ない大切なこと

人生を長い目で見て、自分の子供に何が良いのかは小さいうちはまったく分かりません。小さい間に背伸びをさせず、沢山体を動かして、外遊びでいろんな物に触れて、学校に入るまでにまずは人生の基盤をしっかり作る事が大切、と考えられているのだと思います。

だから、ピアノなどの楽器やスポーツのお稽古事も、ドイツでは一般的に早くても5歳、普通は就学ごろに始めます。その前の年齢の子は、赤ちゃんから習い事は沢山ありますが、何を習っても遊び半分のような楽しいだけのレッスンがほとんどです。

学校に行く前の子供達は、とにかく遊ぶのが仕事です。家の中でも、外でも、たくさんの人や物や動植物に触れます。それが将来、学校で学ぶ上での大切な基礎となる、という考えからくるのだと思います。

飛び級しても法的にまわりと同じにはなれない

実際に早く就学した子、飛び級して普通の年齢よりも早くギムナジウムを卒業した子供たちは、一人暮らしや免許の取得、飲酒年齢など様々なことでまわりと年齢が違うことによる不便があると聞きます。

いくら飛び級したからといって、大人として扱われる年齢が早くなる訳ではないので、成長に伴ってまわりの同学年の友達がいろいろな制限が減って行くなかで、自分だけ法的にはまだ「子供」として扱われるという事が起こります。SNSを利用できる時期、飲酒、運転免許証の取得、など法的な制限は学年ではなく年齢で決められています。

同じことをしている他の友人たちはもう必要がないのに、自分だけ親のサインが必要になったりして、子も親も不便を感じると当事者から聞きました。

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